急速に変化する労働市場において、優秀な人材の獲得と定着が企業の成功を左右する中で、従来の採用手法だけでは候補者の適性を正確に判断することが困難になっています。そこで注目を集めているのが「リファレンスチェック」です。外資系企業では一般的なこの手法が、IT企業やスタートアップ企業を中心に日本国内でも急速に浸透しつつあります。実際、63.1%の企業が早期離職の防止に効果があると実感しています。本記事では、中途採用時のミスマッチを防ぐ「リファレンスチェック」について、基本的な実施の流れから、効果的な質問内容、よくある質問について詳しく解説します。リファレンスチェックとは?リファレンスチェックとは、「候補者の同意を得た上で、候補者をよく知る第三者(回答者)から、人物像・スキルなどをヒアリングする手法」です。前職以前の上司・同僚・部下など、候補者と一緒に仕事をした経験のある職場関係者を回答者に選定し、候補者の強み・弱みや仕事のスタイルなどをヒアリングすることが一般的です。リファレンスとは英語の「reference(参照)」に由来し、第三者の意見を参照することから「推薦状」「紹介状」などの意味があります。リファレンスチェックとはこの「推薦状」「紹介状」を取得して候補者の評価・選考判断を行うことを指します。 リファレンスチェックが昨今注目されている背景昨今、国内企業においてリファレンスチェックが注目されている背景としては、選考プロセスのオンライン化によって、面接のみで候補者のスキル・人物像を見極めすることがより難しくなり、採用ミスマッチリスクが増加したこと働き方の多様化により、転職経験率が増加し、求職者にとってリファレンスチェックの心理的抵抗が低下したことで、一般的な採用手法として実施しやすくなったことが主要な要因として挙げられます。またWeb上で質問・回答できるサービスが出始め、手軽かつ迅速にリファレンスチェックを行えるようになったことも普及の背景にあります。リファレンスチェックの導入目的・実施メリット企業がリファレンスチェックを実施する目的や実施のメリットについては、大きく以下の3点が挙げられます。採用リスクの検知:候補者のスキル・人物像に関する第三者評価を取得し、面接では分からない採用リスクがないかを検知することで、採用ミスマッチ低減に活用します。評価の裏付け/次回面接の仮説立て:これまでの面接評価と前職の上司・同僚の第三者評価にズレがないかを確認するとともに、次回面接で重点的に確認すべきポイントや候補者にアピールすべき(惹きつけ)ポイントの洗い出しに活用します。オンボーディング設計:リファレンスチェックで分かった性格特徴や候補者の強み・弱みをもとに、入社後に最大限活躍いただくためのオンボーディング設計に活用します。ネガティブチェックで利用されるイメージの多いリファレンスチェックですが、実際にはポジティブな回答が得られるケースも多いため、候補者が面接でアピールしきれないポイントが企業に伝わることで、より魅力的なオファー提示につながったり、入社後のオンボーディング設計に活用されることで、候補者としてより働きやすい環境を整備してもらえたりなど、正しく利用されれば候補者側へのメリットもある手法となります。企業がリファレンスチェックの実施を候補者に伝える際も、「選考判断のためだけではなく、候補者が入社後に最大限活躍いただくために実施していること」を明示することが、候補者の納得を得てスムーズな実施をするために重要になります。リファレンスチェックとバックグラウンドチェックの違いリファレンスチェックに類似した調査手法として、バックグラウンドチェック(前職調査)があります。リファレンスチェックは、候補者が指定した第三者(回答者)から、候補者のスキルや人物像について幅広くヒアリングする手法ですが、バックグラウンドチェックは、経歴詐称や懲戒の有無、犯罪歴や破産歴、反社会的勢力とのつながりなど、コンプライアンス上のリスクがないかを企業が主体となって調査する手法です。一般的には、専門の調査会社に依頼して調査を実施します。リファレンスチェックに比べて情報取得率や取得可能な情報の範囲は限定的ですが、より直接的なネガティブ情報を決められた納期で取得できる点がメリットです。なお、リファレンスチェックおよびバックグラウンドチェックのいずれも、候補者の事前同意が必須です。候補者のリスクチェックを主目的としてリファレンスチェックの導入を検討している企業では、リファレンスチェックと併用してバックグラウンドチェックを実施するケースが増えています。リファレンスチェック実施の流れリファレンスチェック実施の流れは、以下4ステップになります。企業から候補者への説明と同意取得候補者から回答者への依頼と同意取得回答者から企業への質問に対する回答提供企業による回答内容の確認各ステップにおける運用の流れは、ヒアリング形式(アンケート形式、電話・面談など)や利用するツールによって異なります。候補者や回答者に対しては、実施目的や個人情報の取り扱いについて事前に同意を取得し、適切に情報を管理する必要があります。情報管理が煩雑になりやすいため、オンラインで完結するリファレンスチェックツールを利用することで、効率的な運用が期待できます。リファレンスチェックの運用ポイントと注意点リファレンスチェックの運用において考慮すべきポイントは以下3点です。実施対象:どのような条件の候補者に対してリファレンスチェックを実施するのか実施タイミング:選考プロセスの中のどのタイミングでリファレンスチェックを実施するのか質問内容:リファレンスチェックでどのような内容を質問するのか実施対象リファレンスチェック導入企業の中には、候補者全員に対してリファレンスチェックを実施している企業もあれば、特定の職種・職位のみに実施をしている企業もあります。実施対象の判断は、「リファレンスチェックによって何を見極めたいか」を軸に判断するのが良いでしょう。スキルマッチを見極めたい場合スキル面は応募ポジションによって見極めたいポイントや面接での見極め難易度が大きく変わるため、現状見極めに課題を感じているポジションから優先的に検討するのが良いでしょう。一般的には、ジュニアポジションと比較して、ミドル〜シニアポジションの方が、前職以前でのスキルを見込んだ即戦力採用となるケースが多いので、スキル面のミスマッチが発生しやすく、優先的な実施対象になるケースが多いです。また、マネージャーポジションについても、マネジメントスキルは面接での見極めが非常に難しい要素であるため、リファレンスチェックで上司・同僚・部下それぞれの視点から、候補者のマネジメントスタイルやコミュニケーションの特徴などを確認することは非常に有効になります。カルチャーマッチを見極めたい場合カルチャーマッチは、見極めポイントや難易度はポジションによって変わらず共通して重要度が高いため、 全ての候補者で実施されるケースが多いです。自社のバリューに照らし合わせて、「候補者は●●を持つ人物だと思いますか?」「AとBではどちらに強みがある人物だと思いますか」といった質問を設計し、ポジション共通で運用するのが良いでしょう。コンプライアンスリスクを見極めたい場合「パワハラ・セクハラがなかったか」「機密情報の取り扱いが適切だったか」などのコンプライアンスリスクをリファレンスチェックで見極めたいと考える企業も多いです。コンプライアンスリスクに関しても、ポジションにかかわらず発生しうるリスクなので、全ての候補者において実施されることが望ましいです。ジュニア層においては、類似のリスクとして「SNSでの不適切な投稿」が発見されることも多いので、SNSスクリーニングが可能な「バックグラウンドチェック」を併用されるケースも増えています。実施タイミングリファレンスチェックの実施タイミングは以下2パターンが推奨です。最終面接前最終面接後(内定通知の前)選考の早い段階だと、採用候補者の志望度を醸成できていない中で依頼してしまうので、リファレンスチェックを拒否される可能性が高くなります。また、内定後にリファレンスチェック結果を理由に内定取り消しを行うことは難しいので、内定後の実施はリスクがあります。リファレンスチェック結果の取得リードタイムは平均で5〜7日程度なので、最終面接日程の調整と並行してリファレンスチェックの実施を進めることが最もスムーズでしょう。リファレンスチェック結果を確認した上で面接での質問内容を調整できると、見極め・アトラクトの観点でも最も有効的な活用が可能です。質問内容リファレンスチェックでよく使われる質問には下記のような項目が挙げられます。スキルや実績を確認する質問例具体的なエピソードと合わせて、強み・弱みや成果を出した経験、成果創出のプロセスを確認する質問がよく使われます。職種ごとに見極めたいポイントが明確な場合はより具体的に特定のスキルに関しての評価や実績を確認することも有効です。候補者の強み(長所)と弱み(短所)を具体的に教えて下さい候補者の貢献により、最も向上した実績値やKPIを具体的に教えて下さい候補者のチームマネジメントのスタイル、管轄していた人数などを具体的に教えて下さいタイトな納期やスケジュールで成果を上げる為にどのような方法をとっていたかを教えて下さい候補者がもう一段階成長するためには何が必要だと思いますか?具体的に教えて下さい人物像や性格特性を確認する質問例「もう一度一緒に働きたいと思うか」を率直に確認する質問や、仕事を進める上で苦手としている人物像・パフォーマンスが下がる要因などを確認する質問がよく使われます。候補者ともう一度一緒に働きたいと思いますか?その理由を具体的に教えて下さい候補者が仕事をする上で苦手としていた人物像を教えて下さい候補者の仕事のパフォーマンスが低下する環境・条件・要因などがあれば具体的に教えて下さいストレス耐性・メンタル面に懸念事項はありますか?具体的なエピソードを教えて下さい候補者が大きな困難や難しい仕事を最後までやりきった具体的なエピソードを教えて下さいなお、本人の健康状態(病歴や既往歴など)について気にされるケースもありますが、厚生労働省が提唱する「公正な採用選考の基本」に則って、業務に直接関係性がなく、本人に責任のない事項について質問することは避けましょう。コンプライアンスリスクを確認する質問例ハラスメント行為や不適切な行動がなかったかを選択式で問う質問がよく使われます。パワハラやセクハラ等の少しでもハラスメント可能性のある行為や言動はありませんでしたか?機密情報や個人情報の取扱いについて、少しでも問題のある行為や言動はありませんでしたか?遅刻や欠勤が多いなど、少しでもスケジュール面において問題のある行為はありませんでしたか?嘘を付く、他者の陰口を言うなど少しでも誠実性に欠ける行為や言動はありませんでしたか?社内のルールや規則を破ることなく、適切な行動をすることができていましたか?リファレンスチェックは良いことしか書かれない?リファレンスチェックの回答は候補者が選定した人物かつ候補者と良好な関係性のある人物が回答するため良いことしか書かれないのではないかという疑問が浮かびます。確かに構造上ポジティブな回答が多くなる傾向はあるのですが、平均的に10~20%程度はネガティブな内容が含まれる回答が得られるケースがあります。例えば、「候補者ともう一度一緒に働きたいと思いますか」という質問に対して、10%程度が「思いません。理由は〜です」といった回答が得られます。株式会社HERPがリファレンスチェックの回答経験のある個人の独自の調査した結果においても、約75%の回答者は、リファレンスチェックの回答において「客観的な視点で記載した」という回答をしており、2-3名の回答者に依頼することで客観姓のある事実を取得できるということがわかります。一方で、リファレンスチェックでは、直接的な表現でネガティブな記載をされるケースは少ないため、より慎重にリスクチェックをしていきたい場合は、バックグラウンドチェックを併用されることがおすすめです。リファレンスチェックは候補者辞退が増える?「リファレンスチェックを実施することで候補者にネガティブな印象を持たれてしまい、辞退されてしまうのではないか?」「自社は著名企業ではないのでミスマッチが減ることよりも候補者が減ってしまうことの方が困る」といった懸念の声も多いです。結論として、リファレンスチェックの平均的な回答取得率は80〜90%と非常に高いため、実際に辞退が発生するケースは多くはありません。一方で、志望度への影響は一定あるため、実施するタイミングや候補者への説明方法などには配慮する必要があります。株式会社HERPがリファレンスチェックの実施経験がある候補者に独自に調査した結果では、約65%の候補者はリファレンスチェックによって「志望度は変わらない」または「志望度が上がる」と回答しているのに対し、約35%は「志望度がやや下がる」または「志望度が大幅に下がる」と回答しています。志望度が下がる理由としては、回答者に回答してもらうのが申し訳ないため複数社にリファレンスチェックを依頼された場合、何度も依頼しなければいけないため周りに転職活動が知られると困るためといった意見が多いです。現状のリファレンスチェックにおいては、候補者の心理的負担や回答者の工数的負担が大きいことが構造上課題であるため、これらを考慮した運用をしていくことが重要といえます。もしリファレンスチェックを拒否されてしまった場合は、採用候補者本人から事情を聞いた上で以下どちらかの方法で対応しましょう。採用候補者が依頼しやすい回答者からリファレンスを取得する(職場を退職済みの元同僚や大学の友人など)代替手段としてバックグラウンドチェックなどで選考判断を進めるリファレンスチェックは違法?結論として、リファレンスチェックの実施自体には違法性がありません。一方で、以下の2点について正しい運用をできていないと、違法になるリスクがあるので注意しましょう。候補者の同意なく裏でリファレンスチェックを実施するリファレンスチェック結果によって内定取り消しをしようとする候補者の同意なく裏でリファレンスチェックを実施するリファレンスチェックでは候補者・回答者の個人情報を扱うため、個人情報保護法に則って運用する必要があります。候補者・回答者に関する情報は個人情報保護法における「個人データ(※1)」に該当するため、本人の同意を得ずに実施した場合は違法になるリスクがあります。第四章 個人情報取扱事業者の義務等第一節 個人情報取扱事業者の義務 (利用目的による制限)第十六条 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。2 個人情報取扱事業者は、合併その他の事由により他の個人情報取扱事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて、当該個人情報を取り扱ってはならない。出典:個人情報の保護に関する法律(平成15年5月30日法律第57号)※1個人データ:個人情報取扱事業者が管理する個人情報データベース等(特定の個人情報を検索できるように体系的にまとめられたもの)を構成する個人情報。たとえば、散らばった名刺を整理して、特定の個人を検索できるように五十音順でまとめれば、個人情報データベースに該当すると言えるでしょう。リファレンスチェック結果によって内定取り消しをしようとする内定は、法的に「就労始期付解約権留保付労働契約」と位置付けられており、労働契約が成立することを意味します。労働契約においては、客観的・合理的に認められ、社会通念上相当と認められる場合でなければ、内定中に解約権を行使できません。したがって、リファレンスチェックで悪い評価や採用リスクが見つかったとしても、内定取り消しを認められる可能性は限りなく低いので注意しましょう。オンライン完結型リファレンスチェックなら「HERP Trust」 株式会社HERPが提供するオンライン完結型リファレンスチェックツール「HERP Trust」では、面接ではわからない第三者評価を平均3日でスピーディーに取得することが可能です。HERP Trust の3つの特長①候補者・回答者体験を重視したサービス設計質問の一部を公開質問に設定することで、候補者は回答内容をフィードバックとして閲覧することが可能です。また、回答者にはサンクスギフトとしてギフトコードが送付され、回答に対する感謝を伝えることができます。②高精度なリファレンス取得を可能とする独自機能独自の適性検査機能による性格分析やリファレンスチェック結果の取得後に回答者に追加で質問ができる「追加質問機能」などにより平均2,000文字程度の高精度な情報を取得できます。③『HERP Hire』との連携による、運用の一元化『HERP Hire』と連携することで、質問項目の作成から回答の確認までを『HERP Hire』内で実行できます。これにより、各サービスへのログインやデータのアップロードといった運用工数を削減するとともに、データの集約によって、データの中長期的な分析が可能になるため、入社後のオンボーディングへの活用といった採用活動全体の改善につなげることができます。以下より登録不要でオンラインデモ体験が可能です。ぜひ一度リファレンスチェックをご体験ください。無料デモ体験:https://www.herptrust.cloud/demo/hire