客観的なデータを人事業務に活用する「ピープルアナリティクス」をご存知ですか? 日本ではすでに約半数の企業が導入または導入を検討しています。 とはいえ、ピープルアナリティクスは通常の人事業務とは異なりデータの収集や分析などの手間がかかるため、導入をためらってしまう企業も多いはずです。 そこで今回は、ピープルアナリティクスを導入するメリットと、その活用方法について詳しく解説します。 この記事でわかることピープルアナリティクスとはピープルアナリティクスが注目されている背景ピープルアナリティクスのメリットピープルアナリティクスを活用する方法ピープルアナリティクスの導入事例ピープルアナリティクスとはピープルアナリティクスとは、客観的なデータをもとに採用や教育、評価などを分析して人事業務に関する意思決定を実施することです。 これまでの人事業務は、担当者の経験や勘などで業務を遂行している企業もありましたが、意思決定時の透明性や公平性を確保する目的から世界規模でピープルアナリティクスの需要が高まっています。 客観的な判断材料を活用することで従業員に最適な職場や働き方を提供できるため、業務の効率化や生産性向上につながる施策だといえるでしょう。 ピープルアナリティクスが注目されている背景【pwcの分析データをもとに解説】ピープルアナリティクスが注目される背景として、AIやビックデータの発展が考えられます。 従来の主観的な判断から、データを活用した客観的かつ公平な意思決定を可能としたのです。 このような技術を活用できる事例として、ピープルアナリティクスはますます需要を高めています。 また、PwC Japanの調査によると、ピープルアナリティクスを活用している、または活用予定とする企業は2016年の44%から2019年には51%に増加しています。 さらに従業員5,000名以上の企業に絞り込むと、その割合は85%までに上ります。 今後企業がピープルアナリティクスで活用したいデータ内容としては、スキル情報キャリアプラン情報従業員意識調査など従業員のモチベーションや育成に関することが多く挙げられました。 さらにピープルアナリティクスは人事データだけでなく、より広範なデータを活用しようという動きが先進企業を中心に強まっています。 働きがいやエンゲージメントを高め、パフォーマンスを発揮させたいという企業のニーズによるものだといえるでしょう。 参考:ピープルアナリティクスサーベイ 2019調査結果 人材データ活用の最前線―HRデータからピープルデータへ― ピープルアナリティクスで分析対象のデータとは?ピープルアナリティクスで分析するデータは、主に4つ挙げられます。 【ピープルアナリティクスで分析対象のデータ】分析データ1:人材データ分析データ2:デジタルデータ分析データ3:オフィスのデータ分析データ4:行動データ 順に解説していきます。 分析データ1:人材データ従業員に関する基本的な情報は、細かく分析されます。 年齢や性別、所属部署、職位、給与などです。 また勤怠や評価歴、保有スキル、特性などについても対象となることがあります。 分析データ2:デジタルデータパソコンの利用状況やインターネットの閲覧履歴がデータとして分析されます。 また電子メールの送受信先や時間帯、電話での通話履歴を把握することで、頻繁にやり取りしてる相手とのパフォーマンスの相関を測る目的で活用されることもあります。 分析データ3:オフィスのデータ会社の設備や部屋の利用・活用方法を分析し、従業員の行動やコミュニケーションを間接的に把握します。 具体的には、会議室や休憩室の利用状況や複合機の活用状況などです。 分析データ4:行動データ勤務中の行動もデータとして分析対象になります。 たとえば、カレンダー機能を用いて着席している時間や会議の時間を測定。また、社用携帯を活用することで、外出先や外出時間を計測することも可能です。 ピープルアナリティクスのメリット【企業・従業員の両面から解説】ピープルアナリティクスのメリットを企業・従業員の両面から解説します。 ピープルアナリティクスのメリット【企業側】企業にとってピープルアナリティクスを実施するメリットは2つ挙げられます。 【ピープルアナリティクスのメリット|企業側】潜在的な課題を把握できるデータをもとに納得した意思決定ができる順に解説していきます。 企業側のメリット1:潜在的な課題を把握できる企業・従業員に関するさまざまなデータから、潜在的な課題を把握できます。 たとえば、会議にかかる時間の統計が出たとすれば「無駄な時間となっていないか」など問題点が明るみになります。 このように数字など客観的に判断できる材料を増やすことで、企業全体の生産性を向上させる効果も期待できるでしょう。 企業側のメリット2:データをもとに納得した意思決定ができるこれまで担当者の価値観や直感など、主観で決めていた事項に対しても、データをもとに客観的に判断できるため、より納得できる意思決定が可能となります。 たとえば、部署異動の際に前任者のデータから後任者の適正が明確になるなど、採用や異動に関する判断においても活用できます。 ピープルアナリティクスのメリット【従業員側】ピープルアナリティクスは、従業員にとってもさまざまなメリットがあります。 【ピープルアナリティクスのメリット|従業員側】根拠ある説明で納得感を持って業務に取り組める業務の引き継ぎがスムーズになる順に解説していきます。 従業員側のメリット1:根拠ある説明で納得感を持って業務に取り組めるデータに基づき様々な判断を行うことで、従業員が納得感を持って業務に取り組めます。 従来の主観的な意思決定の場合は、判断軸などが曖昧ですが、ピープルアナリティクスを活用することで根拠ある説明ができるためです。 従業員側のメリット2:業務の引き継ぎがスムーズになるピープルアナリティクスを活用すれば、組織内での業務の引き継ぎがスムーズになるといえます。 ピープルアナリティクスでこれまでの業務がデータとして可視化されるため、引き継ぎがスムーズになるだけでなく、口頭や文書などでの説明も削減できるでしょう。 ピープルアナリティクスの活用方法ピープルアナリティクスには、さまざまな活用方法があります。 【ピープルアナリティクスの活用方法】採用活動の効率化・意思決定従業員の配属・育成の最適化従業員の離職防止順に解説していきます。活用方法1:採用活動の効率化・意思決定ピープルアナリティクスは、採用活動においてそのメリットを発揮するといえます。 従業員の属性を把握できるデータによって、自社に最適な人材を抽出し、それに基づいた採用基準の作成が可能になるためです。 専門性やスキル、面接時の印象などの採用候補者の情報と、従業員の入社後のパフォーマンスや評価、退職者情報を照らし合わせ自社に最適な人材を正確に判断できます。 このようにピープルアナリティクスは採用活動の質を向上させることできます。 活用方法2:従業員の配属・育成の最適化ピープルアナリティクスは入社後の配属や育成にも活用できます 配属部署に最適な専門性やスキルのデータと、性格適性検査等のデータを組み合わせることで、配属・育成の最適化を図ることができるためです。 また、部署のメンバーを決める際にも互いにパフォーマンスを発揮しやすい従業員を組み合わせるなど、異動時の判断にも有効です。 活用方法3:従業員の離職防止ピープルアナリティクスは、従業員の離職防止にも活用できます。 過去に離職した従業員の属性や離職理由を可視化したデータをもとに、離職の傾向などを分析し、離職防止に向けて対策できるためです。従業員の離職などの傾向を分析できるピープルアナリティクスは、自社の定着率向上に貢献するでしょう。 ピープルアナリティクスを導入する流れピープルアナリティクスを導入する流れは以下のとおりです。 【ピープルアナリティクス導入の流れ】データを収集する仮説を立て、データを分析する施策を立案・実行する順に解説していきます。 ピープルアナリティクスの流れ1:データを収集するまずは自社の課題を洗い出すために必要なデータを収集します。 各部署や業務ごとにヒアリングなどを実施し、それぞれのデータを一箇所に集めましょう。 ピープルアナリティクスの流れ2:仮説を立て、データを分析するデータが集まったら、認識している課題に対して考えられる要因や傾向の仮説を立てて分析します。 「分析」といえば難しいように感じますが、部署別や年代別、役職別など単純な切り口から比較を始めることで専門的な知識がなくても傾向が見えてくることがあります。 ピープルアナリティクスの流れ3:施策を立案・実行するデータの分析がある程度できたら、課題に対する考察と解決策を立案し、実行してみましょう。 施策を実行することによって、新たな課題や必要な分析が見えてくる可能性があります。 ピープルアナリティクスを導入している企業事例4選 ピープルアナリティクスを実施している企業と活用方法をご紹介します。 今回ご紹介するのは以下4社です。 【ピープルアナリティクスを導入している企業事例】パーソルホールディングス株式会社Googleソフトバンク株式会社株式会社日立製作所順に解説していきます。 活用企業例1:パーソルホールディングス株式会社パーソルホールディングス株式会社(旧テンプホールディングス)では、「人事情報を活用し未来を予測し先手を打つ人事を実現する」というミッションの下に、ピープルアナリティクスや各種人事施策の展開に取り組んでいます。 部署異動した際に活躍できるかどうかという「異動後活躍モデル」は人材戦略会議で活用されています。 活用例1:独自の人事予測モデルを開発同社は蓄積されたデータをもとに、退職予測モデル異動後活躍モデルを開発しました。個人情報と人事データを掛け合わせて退職予測モデルは90%程度の精度を保ち、人材流出の防止に貢献しています。 参考:ピープル・アナリティクスの活用により「未来を予測し、先手を打つ人事」を実現 〜90%の精度を実現した、テンプホールディングスの挑戦~(前編)|『日本の人事部 HRテクノロジー』 活用企業例2:Google(グーグル合同会社)Googleでは「ピープルアナリティクス」を、主に採用業務や育成に活用しています。 活用例2:従業員の採用・育成・定着の基盤として活用ピープルアナリティクスの導入により、採用面接の効率化や高度化が実現しました。 またマネージャーに求められる要素を発見したり、チームの生産性を高めるための心理的安定性の発見したりすることで、人材の育成や定着にも貢献しています。 このような事実とサイエンスを取り入れた分析的アプローチにより、効果的かつ公正な解決策や意思決定を導き出すことに成功した事例です。 参考:Google re:Work - ピープル アナリティクス 活用企業例3:ソフトバンク株式会社ソフトバンク株式会社にはピープルアナリティクスのチームが設置され、最先端のテクノロジーを活用した人事領域の業務効率化が進んでいます。 活用例3:AI活用で採用工数を約75%削減同社は新卒採用の選考において、AIを活用しエントリーシートの選考の合否を判断する取り組みを行っています。 これまで人事が担当していた業務をAIに任せることで、公平な選考と工数削減を実現。 2020年からは動画面接にAIを導入し、新卒採用の選考に関する業務のさらなる効率化を目指します。 参考:「ピープルアナリティクス」の定義やメリットとは? 気になる企業事例も紹介 | 人事のプロを支援するHRプロ活用企業例4:株式会社日立製作所株式会社日立製作所では、人事データを活用してさまざまな角度で分析・定量化し、将来のハイパフォーマー人材を増やす取り組みを行なっています。 活用例4:行動データをもとに従業員の幸福度を測定 ウェアラブルセンサーデバイスを用いて、従業員の行動データを測定し、ハピネス(幸福度)を測ります。 これは組織マネジメントに活用する目的で行われており、幸福度を高めることで従業員のパフォーマンス力を高める狙いです。 参考:「ピープルアナリティクス」の定義やメリットとは? 気になる企業事例も紹介 | 人事のプロを支援するHRプロ ピープルアナリティクス導入企業におすすめの書籍ピープルアナリティクスを導入する際には、いくつかの書籍を参考にすると良いです。 今回はピープルアナリティクスが学べる本を3つご紹介します。 ピープルアナリティクスの教科書 組織・人事データの実践的活用法|出版:株式会社日本能率協会マネジメントセンター|著:一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 ピープルアナリティクスで人事戦略が変わる DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文|出版:株式会社ダイヤモンド社|著:ポール・レオナルディ、ノシャー・コントラクター データ・ドリブン人事戦略 データ主導の人事機能を組織経営に活かす|出版:株式会社日本能率協会マネジメントセンター|著:バーナード・マー ピープルアナリティクスのメリットと活用方法まとめ 今回はピープルアナリティクスを導入するメリットや活用方法について解説しました。 データに基づいた客観的な判断材料を増やすと、会社に必要な人材を採用したりスキルを発揮できる環境を従業員に提供できたりと多くのメリットを得られます。 またピープルアナリティクスを仕組み化して、効率よく人事業務が行えるとより有効的です。 ピープルアナリティクスはデータを活用するため、導入ハードルが高く感じてしまいますが、長期的には企業の成長に貢献します。 本記事を参考に、導入を検討してみてはいかがでしょうか。