企業の採用選考では書類選考や面接を実施しますが、なかなか見抜くことが難しい経歴詐称。 とはいえ、経歴詐称をしている社員や採用候補者を内定取り・懲戒解雇せず雇用し続けるのは、採用企業にとってリスクにもなるため、できるだけ避けたいですよね。 しかし、社員や候補者の経歴詐称が発覚した際に「懲戒解雇や内定取り消しはできるの?」「懲戒解雇や内定取り消しを安易にすると違法?」と疑問に思っている方も多いでしょう。 そこで本記事では、経歴詐称が発覚(バレる)理由や経歴詐称する社員を雇用するリスク、社員や採用候補者の経歴詐称が発覚した場合に解雇・内定取り消しはできるのかなどを解説します。 この記事でわかること経歴詐称とは経歴詐称の社員を雇用するリスク経歴詐称が発覚した場合の対処法経歴詐称で解雇や内定取り消しは可能かどうか経歴詐称を雇用前に調べる方法 経歴詐称とは?書類や面接で申告した情報すべて候補者が採用企業に入社したいという思いから、経歴を「盛る」「偽る」など、採用企業の採否判断に、重大な影響を及ぼすこともある経歴詐称。 経歴詐称の対象は、学歴や職歴、犯罪歴など多岐にわたります。これらの詐称は、履歴書や職務経歴書などの応募書類のほか、面接で申告する情報まで、採用選考のあらゆる場面で実施されるものです。 経歴を少し盛る程度の軽微な詐称から、採否に大きな影響を与える重大な経歴詐称まで、程度はさまざまです。 経歴詐称の社員を雇用するリスク3選経歴詐称は、重大なものでない限り、解雇は困難です。 そのため、やむを得ず雇用をし続ける、あるいは程度や勤務態度によっては、経歴詐称を許容するケースもあるでしょう。 ここでは、経歴詐称の社員を雇用するリスク3選を解説します。 【経歴詐称の社員を雇用するリスク3選】リスク1:社内の秩序を保てなくなるリスク2:コンプライアンス上の問題が生じるリスク3:採用時に期待していた能力が発揮できる順に解説していきます。 リスク1:社内の秩序を保てなくなる経歴詐称の社員を雇用し続ける場合、経歴詐称の事実が知れ渡ると、社内の秩序を保てないことがあるでしょう。 経歴詐称の事実がありながら雇用し続けることで、会社が経歴詐称を容認していると思われてしまうなどの支障が生じます。 社内秩序を保つため、経歴詐称の社員を雇用し続けるには、懲戒処分が難しくても人事異動や厳重注意など、何らかの制裁を与えることが肝要です。 リスク2:コンプライアンス上の問題が生じる経歴詐称の社員を雇用し続けることで、コンプライアンスの観点でも問題が生じることが考えられます。 経歴詐称を容認していることが社内外に知れ渡ると、コンプライアンス体制を疑われることもあるでしょう。 このようなレピュテーションリスクを避けるには、経歴詐称者への制裁を与えるとともに、コンプライアンス教育を徹底させることが不可欠です。 リスク3:採用時に期待していた能力が発揮できない経歴詐称は、候補者が自分をよく見せようと学歴や職歴を詐称するケースが多く、採用時に期待していた能力が発揮できないことが大半です。 経歴を少し盛っている程度であれば、影響は生じないことがありますが、学歴や業務に関係が深い経歴などの重大と思われる経歴詐称の場合は、影響は顕著でしょう。 こうした経歴詐称者は、配属されたポジションでの職務が務まらず、早期離職につながるケースが多くあります。 経歴詐称が発覚した場合解雇はできるか社内秩序を大きく乱す可能性がある経歴詐称問題。 不正な手段で入社となれば、解雇を考えることでしょう。しかし、労働契約が成立している以上、簡単には解雇はできません。 ここでは、解雇の種類や就業規則の定めのほか、経歴詐称者を解雇できるかについて見ていきます。 そもそも「普通解雇」「懲戒解雇」の2種類がある例外となる整理解雇を除き、通常、使用者が労働者を解雇する場合の選択肢は、「普通解雇」と「懲戒解雇」の2種類があります。 ここでは、普通解雇と懲戒解雇の2種類について、それぞれどのような経歴詐称が対象になるを説明します。 普通解雇とは|どんな経歴詐称が対象?普通解雇は「病気による労務提供不能」「明らかな能力不足」などの理由で、労働者が労働義務を果たせず、使用者が一方的に労働契約を解約することを指します。 普通解雇を実施するには、「解雇予告」「法令における解雇制限を遵守」などの要件を満たす必要があります。その上で、客観的・合理的で、社会通念上、相当である場合に限り認められるものです。 経歴詐称者を普通解雇する場合、就業規則に経歴詐称が懲戒解雇事由に定められておらず、「学歴」「職歴」「犯罪歴」など重大な経歴詐称に限り認められるものと考えられます。 裁判所の多くは、経歴詐称の解雇は「重要な経歴」に限定していることに留意が必要でしょう。 懲戒解雇とは|どんな経歴詐称が対象?懲戒解雇は、就業規則に基づく懲戒処分のひとつです。今後の就労が極めて困難となるように、労働者にとっては死刑に値する一番重い処分です。 懲戒解雇は、就業規則に懲戒解雇事由の定めがあることを前提に「法令における解雇制限を遵守すること」「解雇権濫用にあたらないこと」の要件を満たす必要があります。懲戒解雇手続きは、処分決定前に労働者に弁明の機会を与え、確証をもって処分を決定します。 懲戒解雇は、就業規則に解雇事由の記載が必要であり、大半の就業規則は裁判所の考え方に基づき、「重大な経歴詐称」に限定していることが大半です。 学歴や職歴、犯罪歴が主な対象です。 重大な経歴詐称のみ懲戒解雇できる懲戒解雇が認められる経歴詐称は、裁判所の考え方に基づき、重大な経歴詐称に限定されます。 応募書類や採用面接で、候補者が学歴や職歴、犯罪歴などを偽ったことが起因して、採否決定に重大な瑕疵が生じた場合などが懲戒解雇の対象になります。 しかし、懲戒解雇を決定するにあたっては、のちに解雇無効とならないように、過去の処分例と平等性が保たれているかなど、さまざまな要素を踏まえて決定することが必要ですので、決定に当たっては、顧問弁護士などに相談することをお勧めします。 懲戒解雇するためには就業規則に規定があることが前提経歴詐称者を懲戒解雇するためには、就業規則に定めがあることが前提です。 具体的には就業規則の懲戒事由に、経歴詐称に関する定めがないと経歴詐称としての懲戒解雇はできません。 懲戒解雇事由に、経歴詐称に関する定めがない場合は、普通解雇によって解雇ができるかを検討の上で実施することが必要でしょう。 経歴詐称で解雇の可能性がある具体例4選経歴詐称で解雇できるかを判断するには、解雇の対象となり得る具体例を知っておくことが重要です。 ここでは、経歴詐称で解雇の可能性があるケースはどのようなものがあるか、具体例4選を紹介します。 【経歴詐称で解雇の可能性がある具体例4選】学歴詐称職歴詐称犯罪歴に関する詐称病歴に関する詐称順に解説していきます。 具体例1:学歴詐称学歴詐称は、自分をよく見せようと、在籍したことのない学校に在籍したして、履歴書や面接で偽る、あるいは、高卒を大卒と偽るなどが多いでしょう。 また、中退にもかかわらず卒業とするケースもあります。 稀なケースですが、大卒を高卒と低く偽る場合も経歴詐称にあたるほか、浪人や留年を隠すために、入学や卒業年度を偽ったりするケースも見受けられます。 なかには、卒業証明書を改ざんする、あるいは偽装するなど、巧妙な手口で経歴詐称するケースもありますが、このような経歴詐称は犯罪行為となります。 具体例2:職歴詐称職歴詐称は、自分をよく見せようと職務経歴書などの応募書類や採用面接で、職歴を盛る、または偽るなど、能力や経験を高く偽るケースが多くあります。 また、正規雇用と比較して、不利な職務経歴といえるアルバイトや派遣社員の従事期間や空白期間を前後の有利な職歴期間に含めるなど、隠ぺいすることもあるでしょう。 契約社員やパートなど非正規雇用であるにも拘らず、正社員と偽るような社員区分の詐称をすることもあります。 具体例3:犯罪歴に関する詐称履歴書に賞罰欄がある場合、犯罪歴の告知義務がありますが、犯罪歴のある候補者は、賞罰欄のない履歴書を利用することが考えられます。 採用面接などで聞かれない限り、自ら犯罪歴を告知する義務がないため、採用面接で犯罪歴を詐称するケースが多いでしょう。 また、消滅した前科は告知義務がないことにも留意が必要です。 具体例4:病歴に関する詐称病歴に関する経歴詐称は、メンタル疾患などの場合に偽るケースが大半です。 自ら告知する義務はなく、病歴を理由に採否を判断してはならないため、把握することが難しいといえます。 メンタル疾患の場合、休職して療養することもありますが、その休職した実績も伏せることがあるでしょう。 経歴詐称で解雇できないケースとは経歴詐称で解雇できるのは、裁判所の考え方や就業規則の定めにより、「重大な経歴詐称」に限定されています。 重大な経歴詐称は、学歴や職歴、犯罪歴が主となりますが、それらに該当しても、詐称の程度や勤務態度などを踏まえて判断する必要があります。 経歴詐称で解雇できないケースは、このような重大な経歴詐称に当てはまらない場合です。 具体的には、経歴を詐称した内容が業務に影響しない、学歴詐称であっても職務に学歴を求めていないケースなどがあります。 経歴詐称で解雇できない場合の対処法経歴詐称は、ここまで触れてきたように、解雇できるのは重大な経歴詐称に限られています。 解雇したくても、やむを得ず雇用し続ける場合や、勤務態度などに問題なく許容する場合もあるでしょう。 ここでは、経歴詐称者を雇用し続ける場合の対処法を説明します。 【経歴詐称で解雇できない場合の対処法】対処法1:経歴詐称を社内に公表するか否か決める対処法2:給与を下げるか否か決める順に解説していきます。 対処法1:経歴詐称を社内に公表するか否か決める企業秩序維持の観点から、問題行動の内容を知らしめる有用性はありますが、人物を特定して公表することはプライバシー侵害にあたり得る可能性もあり、慎重な判断が必要です。 懲戒処分になった者であっても、当該者から訴えられることもありますので、懲戒処分に該当しない経歴詐称者の氏名公表は控えるべきです。 対処法2:給与を下げるか否か決める経歴詐称で給与を下げるには、就業規則に経歴詐称に関する懲戒処分の定めがあることが前提です。 基本的には、経歴詐称が減給処分の懲戒処分事項としての定めが必要ですが「重大な経歴詐称」が懲戒解雇として定められていた場合、懲戒解雇の定めを準用して、減給とすることも考えられます。 労働基準法に定める減給の範囲を超えると違法になることに留意が必要です。 経歴詐称の度合いによっては解雇しない場合も経歴詐称によって解雇する範囲は、重大な経歴詐称に限定されています。 そのため、やむを得ず経歴詐称者を解雇できない場合や、経歴詐称の程度や勤務態度により、経歴詐称を許容して雇用し続けることもあるでしょう。 経歴詐称が判明しても給与返還はできない可能性が高い給与は労働者による労働の対価として受け取るものであり、雇用主は労務提供を受けた対価として給与は支払義務があります。 そのため、経歴詐称が発覚したからといって、給与を返還してもらうことは極めて困難でしょう。 ただし、経歴詐称が起因して企業に損害が生じた場合、損害賠償請求できる可能性があります。 経歴詐称を雇用前に調べる方法4選|こんな時に発覚する将来、採用企業に大きな問題を抱えるリスクがある経歴詐称者。雇用前に、経歴詐称をスクリーニングすることが肝要です。 ここでは、経歴詐称を雇用前に調べる代表的な方法を紹介します。 【経歴詐称を雇用前に調べる方法4選】提出書類を工夫する採用面接を工夫するリファレンスチェックを実施するバックグラウンドチェックを実施する順に解説していきます。 調べ方1:提出書類を工夫する経歴詐称を雇用前に調べるには、第一に、提出書類を工夫することです。 具体的には、次の書類を貰い受けることによって、経歴詐称を調べることが可能です。卒業証明書雇用保険被保険者証退職証明書源泉徴収票年金手帳卒業証明書や退職証明書、源泉徴収票を求めることで、学歴や前職のエビデンスを確認することができます。 また、雇用保険被保険者証に付帯している「雇用保険被保険者資格等確認通知書」の写しを貰い受けることで、前職情報の確認が可能です。 年金手帳は、空白期間やアルバイト期間に加入義務がある国民年金の加入歴を確認することができます。 調べ方2:採用面接を工夫する候補者は、聞かれなければ告知義務がないことから、経歴詐称を防ぐには、履歴書や職務経歴書に現れない事項を面接で確認することが必要です。 質問をすれば、候補者は回答する義務を負うことに留意し、質問すべきことは、採用面接で網羅的に確認することをお勧めします。 職務経歴書や履歴書に虚偽があった場合、候補者は、その書類の流れに合わせて回答することが想定されるため、書類とは別の切り口で質問することもポイントです。 調べ方3:リファレンスチェックを実施するリファレンスチェックとは、候補者をよく知る上司や同僚から、人物像や経歴など問い合わせする調査です。応募書類や採用面接の告知内容に虚偽はないか、あるいは把握できなかった候補者の経歴などもリファレンス先に確認することが可能です。 一般的なリファレンスチェックの流れは次のとおりです。 【リファレンスチェックの流れ】候補者へ調査実施の説明と合意候補者から上司などのリファレンス先へ依頼リファレンスチェック実施上司や同僚など、複数のリファレンス先からヒアリングをするため、複数人の告知内容から、経歴などの整合性を確認することが可能です。 以下の記事では、リファレンスチェックのメリットや実施方法を詳しく説明していますので、参考にしてください。リファレンスチェックとは?質問内容・メリット・実施方法を解説!調べ方4:バックグラウンドチェック(前職調査)を実施するバックグラウンドチェック(前職調査)は、採用企業が委託した調査会社が実施することが一般的です。 バックグラウンドチェックを実施する流れは以下のとおりです。 【バックグラウンドチェックの流れ】採用企業から候補者への調査の説明・合意採用企業から調査会社へ依頼調査会社にて調査実施・採用企業へ結果報告バックグラウンドチェックは、犯罪歴や病歴など差別に繋がり得る情報も対象にしている調査会社があります。 しかし、このような差別に繋がる個人情報は、個人情報保護法上、要配慮個人情報と定義され、入手する旨を候補者から同意を得る必要があります。 プライバシー保護の観点等もあり、近年では、調査会社を利用して犯罪歴などを調査する企業は減少傾向です。 以下の記事では、バックグラウンドチェックを詳しく説明していますので、参考にしてください。バックグラウンドチェック(採用調査・身辺調査)とは?内容や実施方法を解説 経歴詐称や経歴詐称の対処法についてもっと学びたいという方は以下の記事をご覧ください。皆様の経歴詐称に関する悩みが解決するはずです。【完全版】経歴詐称の見抜き方7選|バレる理由や懲戒解雇の可否も解説経歴詐称で解雇・内定取り消しはできる?経歴詐称への対応方法4選経歴詐称で解雇できる項目まとめ 本記事では経歴詐称で懲戒解雇、内定取り消しできる項目を解説しました。 経歴詐称している候補者や社員を雇用することは採用企業にとってさまざまなリスクがあり、適切に対処することが重要です。 なかでも、重大な経歴詐称の場合は懲戒解雇や内定取り消しも検討する必要があるでしょう。 最後に、経歴詐称で解雇・内定取り消しできる項目をまとめます。 【経歴詐称で解雇・内定取り消しできる項目】学歴詐称職歴詐称犯罪歴の詐称病歴の詐称 本記事が経歴詐称の防止や対処の一助になれば幸いです。